大判例

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名古屋地方裁判所 昭和26年(ヨ)380号 決定

申請人 須部千早

被申請人 刈谷生活協同組合

一、主  文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

二、理  由

当事者双方が提出した疎明資料により当裁判所が認定した事実及びこれにもとずく判断の要旨は次のとおりである。

一、申請人は昭和二十六年五月被申請人組合に試傭期間三ケ月の約で雇傭せられ被申請人組合事務員として勤務していたが、同年八月七日被申請人組合よりその試傭を取り消されたものである。

二、申請人は、右は申請人の態度が高圧的であるとの事実無根な理由や些細な事務のかしを理由としてなされたものであつて解雇権の濫用であると主張するから、まずこの点について考察する。およそ雇傭契約において、解雇は契約の解除とことなりいわゆる告知であつて雇傭主の自由になしうるところである。しかしながら、権利の行使といえども信義誠実の原則に反するときは権利のらん用として許されないこと勿論であり、この理は労働関係においてもなんら異なるところはない。けだし、労働者は一般に雇傭による収入をもつて殆んど唯一の生活資金としており、一旦解雇されると容易に他の職につくことができず解雇によつて全くその生活をおびやかされるに反し、使用者は他の労働者を求めるのに比較的容易であるからである。従つて、解雇になんら相当な事由のないときは権利のらん用とされることが多いというべきであり、このことは試傭中のものに対する場合においても同様である。ところで本件についてこれをみるに、疏乙第一、第四、第五号証によれば、被申請人組合の就業規則第十八条には「試傭期間は三ケ月とする。但し業務の都合により試傭期間を延長し又は試傭を取り消すことがある」旨定められてあり、被申請人組合は右規定にもとずき申請人の試傭を取り消したことが窺われる。そして右規定にいわゆる試傭とはその字句の示すとおり試験的の雇用であつて、被申請人組合は業務の都合により自由に右試傭を取り消すことができるものと解すべく、これをもつて解雇権の濫用となすべきではない。よつて申請人の右主張は採用するに由ないものといわねばならない。

三、次に、申請人は被申請人が本件解雇の通告に際して予告手当を支払わなかつたから右解雇は無効であると主張するが、被申請人提出の疏乙第二号証によれば、被申請人は申請人に対し昭和二十六年八月七日試傭取消に際し解雇予告手当として金五千円(一ケ月分の給料相当額)を提供したが申請人が受領を拒否したので、ついに右金員を供託するに至つたことが窺われるから申請人の右主張も理由なきものといわねばならない。

以上のように、本件解雇の効力を争う申請人の主張はいずれもその理由なく申請人はすでに被申請人組合の従業員たる身分を失つたものというべきであり、従つて右従業員たる地位の存続することを前提としその保全を求める本件仮処分申請は結局その疏明なきに帰し失当である。よつて右申請を却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する次第である。

(裁判官 山口正夫 中瀬古信由 黒木美朝)

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